劇団today第35回本公演
原作 別役実
演出 鳥居孝文
於 日光市中央公民館 中ホール
2024年9月14日(土)18時
とある山道の途中、ピクニックの準備がされている。食べ物が詰まったいくつものバスケット。その傍らで蓄音機が音飛びで何度も同じところを繰り返している。何故かピクニックの準備をしたはずの人物はどこにもいない。
三々五々通りかかる男女。祖母と娘。薬売りの女性。マラソンランナー。中年夫婦。それぞれが目的地を持ち時間的制約もあったはずが。音飛びの蓄音機が気になることをきっかけに足を止める。地図の確認を最初はこだわっていたのに、だめじゃないかという人もいたのに。なし崩しに宴会が始まる。誰か知らない人が用意した食べ物を食べ酒を飲みコーヒーを味わう。誰も責任を取ろうとせず、もし誰か来たらその時はその時。同調圧力と無責任。その宴は最後にやってくる男の言葉で崩壊する。
この先の車の中でピクニックの当事者1家6人が心中していると。そして「ところであなたたち一体誰なんです」という問いかけが宴を楽しんでいた6人に投げかけられる。
別役実の不条理劇。と言ってしまえば簡単だが誰も自分の意見をはっきり言おうとせず、同調圧力と無責任、勢い任せで突っ走り他人のものを簒奪する。その果の破滅とじゃあ、あなた達は何者なのかという問いかけ。なんとなく社会的によくある出来事を戯画化したような雰囲気がある。
劇団today版では以上の原作の登場人物の他に謎の少女を登場させバスケットの蓋を開けたりシャボン玉で遊んだり。折々に現れて妖精なのか心中した家族の娘の霊なのか。面白いアクセントとなっていた。
印象に残ったのは宴のきっかけとなってしまう夫婦。夫のおっさん臭いいい加減さと、ただ一人異論を言い続けていたがそれ以上の行動に移すことができず状況を変えられず最後にだから言ったでしょうと言う妻。特に妻を演じた方が心情がよく出ていてよかった。
劇団todayは日光市を拠点とした老若男女が参加するほのぼのとした持ち味の市民劇団。今回の不条理劇は通常公演作品と比べると挑戦と言える。ところで芝居が終わった後の素に戻った時の舞台から溢れだすほのぼの感。これを見ていてこのほのぼの感が芝居の中でも溢れ出ていたらさらに不条理感が際立ったのではないかと思った。ある意味親戚や親しい仲間内で集まっての無礼講のような感じ。誰も悪意がない無責任というべきか。
小さいことだが蓄音機の音がほとんど聞こえなかったのが残念だった。また掛け合いの自然さはいいのだが自然すぎて客席に表現が向ききっていないように思えた。特に背中を向けたときに気になった。背中を向けてもいいのだがその場合でも客席への意識は必要だから。やはり客席にどんどん投げかけてほしい。
今回35回目の公演。久しぶりに観劇した。持ち味を活かした舞台の合間に挑戦的舞台も上演する。これからも着実な公演を続けていってほしい劇団である。なお、今回まで上演を行ってきた日光市中央公民館が老朽化による建て替えになるとか。日光市近辺で公演を打てる会場を探しているとのこと。もしいい会場をご存知の方がおられたらご一報をという話だった。