テアトロミリアム(旧栃木県の演劇情報)

栃木県内の演劇について語るブログです。

斎藤幸子

遊幻空間第22回公演

 作 鈴木聡

 演出 川崎雅彦

 2026年6月21日(日)16時

 かぬまケーブルテレビホール小ホール

 


斎藤幸子。よく聞くような名前である。実際自分の知人にも斉藤幸子さんがいたりする(斉の字違いだが)ということで今回の芝居の斎藤幸子さんはごく普通の家に生まれたごく普通の女性ではある。ただ少々思い込みと思いつきで突っ走る傾向があり、そのために波乱万丈な人生を歩むことになったりする。


昭和の風情を残した東京下町は月島のもんじゃ焼きを生業としている斎藤家。舞台上には隅々まで生活感の溢れた遊幻空間印の斎藤家とその隣のもんじゃ焼き屋のセットがいつものことながらしっかりと組み上げられている。そこに登場する人々もそれぞれの人生を感じさせる佇まい。先の公演の新・幕末純情伝とは違う等身大の市井の人々を役者全員が自然に演じきっていた。


妻に先立たれた男やもめの父親としっかりものというかきつめの姉と暮らす斎藤幸子。隣のもんじゃ焼き屋の親父と息子。幸子に片思いの小説家志望の青年(語り手でもある)姉貴分の風俗嬢。その他様々なご近所界隈のちょっと個性的な面々が入れ代わり立ち代わりやってくる。そこに一人の男がやってくる。


思い込みと思いつき。下手な考え休むに似たり。勘違いに次ぐ勘違い。明後日の方向を迷走する幸子の17歳からの怒涛の15年。初体験。元の担任と駆け落ち。別の男に出会い乗り換え女性社長になって戻ってくる月島の街。しかし男は詐欺を働き。そして。


昨年の 新・幕末純情伝 のような派手なキャラとは違う本当に下町の日常を生きる人々(とはいえそれなりにドラマチック)生活感のある普通の人びとを全員が生き生きと演じていた。特に印象に特に残ったのは主役の斎藤幸子はもちろんだがいい味を出していたその父親(柴原直人)酸いも甘いも噛み分けた感のある存在感抜群の姉貴分の風俗嬢(みゆき)月島の面々とは違う異質さ独特の存在感を持つ今回茨城から参加の詐欺師(黒田佳宏)彼らだけではなく舞台上の全員がそれぞれの個性も味もある生きた人間としてそこにいた。全員の役としての表情が今でも思い浮かぶ。


斎藤幸子なのだがこの作品の煽りにパープリンの表示があるがゆーきゃんの個性でもあろうがもっとしっかりした女性のように見えた。でも世間知らずの少女が色々と世間にもまれ大人の女性になっていく経過がきちんと描き出されておりこれはこれでありなのだと思えた。


前から思っていたが今の栃木県、本当にいい役者が揃っている。先は書かなかったが客演などで様々な舞台でよくお目にかかる劇団todayの鳥居貴文、劇団遊幻空間のゆうや、劇団ネクスト・ステージの田口優太、山根秀樹、劇団ユニットD✱Bloomの立花一、演劇企画シャングリラの氷丘れおなど客演やユニット公演で舞台経験を重ねることがいい効果を生んでいる。もちろん中山加奈、劇団バッカスの伊佐場武も重ねた経験値から醸し出されるいい味を出している。


さらに新・幕末純情伝のようなアクション大作に続き人情コメディ「斎藤幸子」を魅力的に演出した川崎雅彦も旗揚げ公演から26年という積み重ねが生きている。また今回の作品はコロナ禍によって公演中止になったものであり、上演に対する意気込みは並々ならぬものだったろう。それもあってか非常に満足感の高い舞台になっていた。


2000年あたりから県内の演劇を見てきたが今が一番面白い状況になっている。若手、中堅、ベテランが揃って公演場所も機会も増えた。周辺の県の演劇状況も含めてのこれからの動きがますます楽しみな今日この頃である。

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これ以上削れない3 in 宇都宮

2026年6月7日(日)

於 アトリエほんまる


宇都宮の小劇場アトリエほんまる主催の一人芝居フェア。今年は土浦とも連携しての実施。3回目を迎え、北関東に埼玉も加わる本当に面白いフェアに成長してきている。


第一部


「さよなら箱守くん」


作・演出 新堀浩司

瀬尾佳羽奈(演劇修団たまてばこ 茨城)


 舞台中央とその前に椅子ほどの大きさの箱が2つ。手前の箱にはさらに小さな白い箱が乗っている。売れないバンドのライブで出会った男女。しかしすでに男性の方から別れを告げていたらしい。おおらか(大雑把)な彼女と繊細(神経質)な彼氏。正反対の性格の2人。明るく別れて正解だったという女性。楽しかった思い出を語り続け、それでも残る思い。男性は重い病になりそのことを打ち明けず別れを告げたことが明らかに。葬式のあと女性は骨壷を納めた小さな白い箱に語り続けていた。不本意な別れであっても好きだった。語り終えて女性はひとり未来へと歩み始める。彼との思い出がたりが訴えてくるもの。そこから白い箱の正体が途中で推し量れた。彼への思い、後悔。それが切実に伝わってくる作品。


「すべからく」


作・演出須長亜依梨(原作 江戸川乱歩「芋虫」)

須長亜依梨(栃木)


江戸川乱歩「芋虫」より。戦場で手足を失い話もできずただギラギラした目で睨み、畳に頭を打ち付けることでしか意思を表せなくなった男。の妻の物語。光る黒い素材で出来た透ける布をヴェールのようにまとって行われる妖しくエモーショナルなパフォーマンスから舞台は始まる。布はまとめられ芋虫と化した夫と彼を介護し続ける妻の壮絶な日常が描かれていく。壮絶かつ明日の見えない惨めささえある毎日。外に出れば軍神の妻として敬いと憐れみの眼差しを受ける夫と自分しかいない孤独な日々。閉じ込められた心理空間の中で歪な共依存的存在になっていく。「私はあなたであなたは私」やがて夫は亡くなり喪失感の中妻の精神も崩壊していく。夫が苛立ちのまま頭を畳に打ち付ける音が効果的。どんどん妻が精神的に追い詰められていく様が描かれていた。この音は妻役の須長氏が足を踏み鳴らすことで出していた。ただ明らかに踏み鳴らしているのが見えるのが気になった。ドレスの裾を長くするか布を使うか何らかの形で見えないようにできるとさらに良かったと思う。


「右に行け」


作 大原尚峻

演出 萩野谷幸三

大原尚峻(茨城)


何かを食べているグレーの服を着た男。腹を抱える(腹痛?)右に行け、左に行くなという指示。ひたすら支持に従い右に行くと無限ループにはまる。しかしなんでだ?疑問が浮かび左に行くと壁にぶつかる。さらに強引に壁を突破すると・・・ネズミ捕り?実は男は実験動物のネズミ。食べたら洗脳できるAIチップを摂取させて一週間命令し続けた。しかし最後何故か自分で考え左に行ってしまう。なぜなのか思考する研究者。しかし彼もまた。最初のループは面白かった。最後の研究者(人間)の状況の皮肉。ただちょっと説明的すぎる気もした。後半はもっと簡潔にまとめる最初のテンポを維持したままどんでん返しに繋がったのではないか。パントマイムで状況を見せたのは良かった。勢いで本物の壁にぶつかったのはご愛嬌。芝居なのか違うのか思わず?が飛んだが。


「またたくあいだ」


作・演出 いしむらなお

五十嵐まさたか(劇団AKⅡ 栃木)


懐かしい青春のきらめきを感じさせる作品。そして青春とは夢と現実の間にあるひと時の輝きということを思い起こさせる作品でもあった。エプロンをつけ、右手にトングを持ったパン屋の従業員をしている青年。様々な客(中には過激なじーさんも)がやってくる。苦労しつつも仕事をこなす彼のもとにかつてともに演劇を目指した後輩から電話がかかってくる。近況とそして懐かしい日々を語り合う。この電話のシーンが非常にいい。生き生きと本当に当時を思い出しつつ話し合っている感じ。夢を持って無邪気に突き進んでいた昔と現実の中で戦っている今。誰もが心の中に持っているだろうあの頃の記憶を思い起こさせるような芝居だった。そして五十嵐氏といえば殺陣である。最後トング片手に件のじーさんと戦う様は本領発揮のサービスであった。

 

第二部


「よくある話」


作・演出 よくある話製作委員会

鮫島ひかる(茨城)


デパート女子トイレ大爆破。女子トイレに座ってほっと気がつけば目の前に「立ったら爆発するぞ」的張り紙。いたずらなら問題ないが本当だったら。ということで籠城状態へ。鮫島氏のトイレから立てなくなった女性のジタバタが実に面白い。追い詰められた挙句知り合い二人に二股告白。そうしたら件の二人が一緒にいてすぐバレたとか。とにかく笑えた。脚本の展開も鮫島氏の間合いもテンポもオチも流石。最高のコメディだった。


「ホームアローンウィズユー」


作・演出 強

強(おこわ)(栃木)


ローカル線の駅。学校に登校するために高校生がやってくる。諸事情によりこの駅で乗り換えのため待ち時間1時間。さてこの手持ち無沙汰な1時間。どうやって時間を潰そうか。と読書したり音楽を聞いたりだんだん発想が凄くなっていったりして。そのうちに味噌汁を通して駅員への淡い恋心。青春の一幕としての苦さも残る。これはもう高校生としての記憶が鮮やかな演者だからこそ描けた脚本であり芝居だろう。やや生硬さはあれどとても素直でほのぼのとした芝居だった。


「Scrap」


作・演出 ゴリリズム

ゴリリズム(演劇集団「風ノ街」茨城)


ひたすら臭ってきそうな芝居だった。小汚い(としかいいようのない)じじいがひとり。自分で自分の臭いを嗅いでは何度も臭さを実感。曰く芳醇な人生の香り。彼は何かを思ったりやってはいいことと悪いこと2つの袋に日記?を書いて突っ込んでいく。男はそれらの記録をスクラップしていく。人生とは結局情報(記憶)の集積。今どうであろうとも。躓いてかっ散らかる情報バラバラ事件。でもそれは死体ではなくバラバラなうちは生きている。無臭の情報そして臭いは男自身から。かなり吹っ飛んだ内容と滑稽さそれでも人生には芳醇な香り(どんな臭いであろうと)が残る。それは本人が生きているから。という深い味わいまで残る不思議な芝居だった。ただ舞台を何かでかっ散らかすとこういうフェアタイプのイベントだと次の演目の準備に影響が出る場合があるので注意は必要だとしみじみ思った(実は昔やろうとして思いとどまった経験あり)


「乱視」


作・演出 富井大遥

富井大遥(大遥図鑑 群馬)


楽器を持ったバンドマンらしい男がやってくる。レコードプレーヤーを準備してレコードをかける。やおら変装を解くと楽器の袋から出てきたのはライフルだった。仲間の女性やボスから電話がかかってくる。しかし女性とボスからの電話の内容が微妙にずれ始める。次第に男は追い詰められていく。「歪んでいるのは俺か世界か」混乱する男。しっかりした一本通った物語を感じさせる芝居だった。前の芝居のとっ散らかった状況から結構舞台装置の揃ったこの芝居への転換お疲れ様でした。演者の都合もあったとは思うがやはり順番は一考の必要があったように思う。

 

第三部


「朝日が沈む」


作 植田そうへい

演出 古河香

古河香(演劇集団volumeZERO)


明け方の崖っぷち(ひょっとしたら自殺の名所)爺さんが佇んでいる。そこに来たタバコ好きな赤いジャージジャケットをラフに着た女(ただし火がないので何度も吸おうとしては諦める)そこではじまる(一人でやっているけど)掛け合い漫才。爺さんの抱えている問題と生命と背景は実にシリアスなのにこの掛け合い漫才が最高にいい。人情の機微に溢れる脚本もいい。やがて女が爺さんの妻に頼まれた探偵だとわかる(実はそれだけではないが)見えてくる人生と家族の物語。本当にうまい役者さんだと思った。一人で掛け合い漫才をするというのは非常に難しいはずで。その上で奥深い物語を描ききっていた。


「芸人 宮本武蔵」


作 尾崎優人(優しい劇団)

演出 たこ丸

たこ丸(劇団ドラハ 栃木)


「侍タイムスリッパー」という幕末の侍が現代にタイムスリップしてやってくるという映画が話題になったがここでは何故か宮本武蔵が現代にタイムスリップしてやってくるという物語。さらにその宮本武蔵が何故かお笑い芸人になるという?が飛び交う展開に。演者が演じているのは宮本武蔵の弟子。というかお付き?ストーリーや内容よりとにかく演者の上演中ひたすら動き回り駆け回りしゃべくり回り叫びまくるというよくまあ体力が続くと感心させられる芝居が記憶に残った。武士である武蔵と現代の思考との軋轢。シュールで無茶苦茶な印象が強いが「人殺しの技術を笑う」というフレーズが観たあと刺さる作品だった。


「しゅうまつの月」


作 富井大遥

演出 藤束遊一

斎藤大学(演劇ユニット「きそう」埼玉)


地球最後の日、あなたは何をするか。という問いが時々話題になるがこれは後10分で月が地球に落ちてきて滅亡するという日の物語。主人公はとある普通の青年。何をするかとなってやったのはみさきちゃんへの告白。曲だけだった自作の歌の歌詞を完成させること。ひとしきり歌いきってやりたいことを達成した気分に浸りその時を待つ。が突如として終末が終わりただの週末の日常だけが残る状況に。なんとなく人間ってこんなものだろうなと妙に納得してしまう作品だった。しっかりと日常が描かれていたからこそ説得力が出ていたのだと思う。


「リスタートケア」


作・演出 TAKE

TAKE(劇団バッカス 栃木)


某病院にいた頃勤務していた医療関係者がそこの検査で重い病気が発覚し入院というような話があった。主人公はバリバリ仕事をこなすケアマネージャー。いろいろな人の相談を受け介護について語る日々。そのうちに自分の異常に気づいていく。物忘れ。いつもなら覚えているはずなのにいつもなら普通にできるはずなのに。大きくなる不安。診察を受け若年性の認知症とわかる。認めたくない。しかし。誰にも言えない悶々とした日々。それがとあるきっかけで人に話せたら楽になった。一人で頑張るのではなく周囲に理解してもらい周囲に手助けしてもらうことで再びケアマネの仕事を継続していく。それこそが本当の自立だと。物語の構成、表現、演技とも非常に完成度の高い作品だった。たった20分の中に見事に一人の人間の人生を描きこんでいた。さらに現代の課題としての介護や認知症。社会的テーマも伝わってきた。今回のフェアのトリにふさわしい芝居だった。


ともかく今回の「これ以上削れない3」1日あたり(20分✕4人)✕3部構成で2日間全公演いずれもが満席。しかも2日めは7割が通し券という大盛況だった。“北関東の小劇場“主催の一人芝居フェアとしてしっかりと定着してきたように思う。何より前2回の栃木、茨城、埼玉に加え今回群馬からの参加があったのも嬉しい。内容的にもどんどん充実してきている。


あとずっと観ていて使われる音楽のセンスの重要性を感じた。ひとり芝居の場合特に世界観の構築に非常に力強い味方になる。また今回、例えばかなり大きい音が出るとかテーマ的に精神的負担が大きくなりそうとか。演目における注意事項をQRコードを読み込むことで確認できるサポートがあってよかった。


新しい試みも加えつつ来年は更に良いフェアに成長していってほしいと期待している。

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古い事を記した本を分かり易く朗読する劇

タウリン1000mgシアター30year 特別公演

脚本 申千流驂

演出 TAMAMI

2026年5月31日(日)13時

於 大谷コネクト内 旧大谷公会堂

 

タウリン1000mgシアターの特別公演は最近平和観音近くに移設された大谷公会堂の歴史ある建物での朗読劇。昔の講堂といった佇まいの中でみんなが知っているようで意外と知らないところもある日本最初の歴史書古事記の物語が繰り広げられた。


白と黒のそれぞれ異なるが全体として統一感のある衣装を着たメンバーが様々な役を次々と入れ代わり立ち代わり語り演じていく。まだすべてのものが混沌の中にあり神々さえ姿を持たなかった別天津神の時代から始まりイザナギイザナミの国生み、二柱の神の別離、アマテラス、ツクヨミ、スサノオのいわゆる三貴子の誕生と天岩戸の物語まで。今風の言葉や解釈をはさみつつテンポよく展開していく。


朗読劇なのでそれぞれが台本を持って上演する形態。ただ演じるというよりもトーク的といえばいいか。おしゃべりをしている感覚に近い。シーンや状況の説明も逆ナンパ(国生みで女性のイザナミから先に声をかけた)とか日本初の離婚(イザナギとイザナミの黄泉比良坂の別れ)など実に噛み砕いた言葉で表現してくれるのとユーモア溢れる語り口でわかりやすく楽しい朗読劇になっていた。


ところでタウリン1000mgシアターの公演の前座(といっていいのか)的に「栃木ちっけえ旅」というシンガーソングライターらしい下野上野之介氏による短い動画が流れるのだがこれもなかなか味がある。最近の県内の演劇公演でも様々な動画が使われるようになってきた。劇団の紹介や公演内容、あるいは上演中の注意事項など用途は様々だがタウリンの「栃木ちっけえ旅」はまた独自の路線で面白い。今回は公演地大谷の旅もはいっていた。


タウリンの公演は毎回書いているが様々な年齢層の団員が本当に演劇を楽しんでいるのが伝わってくるのがいい。“みんなで”というのがポイント。ということでサイトに行ってみた。これまでのタウリンの公演をサイトで確認し、オムニバス、日常感覚をちょっとずらした程々のシュールさ、ユーモアにちょっと皮肉を添えてといった要素が伺えた。で、古事記だが。いろいろな話の集合体という意味ではオムニバス的だし話も神話だから飛んでいる。その一方で結局男女がナンパで知り合って結婚したけど離婚して。あるいはしっかりものの姉と我侭な弟が喧嘩するといった実に日常的な話が神話だけにあさっての方向に飛んでいく面白さ。捻った現代語訳といった具合になるほどタウリンに相性がいいネタだったのだなと納得。今回感じたのは座付き戯作者申千流氏の脚本の良さ。意外性がありわかりやすく面白い。批評性もある。タウリン1000mgシアターの独自性を生み出している要だと思った。


タウリン1000mgシアターは今年(2026年10月)本公演とのことだがその前7月に茨城県小美玉市の四季の里演劇祭2に参加予定とのこと。アトリエほんまるのこれ以上削れないもそうだが隣県同士の交流が活発になっていくのは実に楽しみだ。

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夏の夜の夢

シニア劇団スターライト第6回公演

原作 W.シェイクスピア

脚色・演出 鵜飼雅子

2026年4月26日(日)

於 アトリエほんまる


毎回挑戦を続けるシニア劇団スターライトの今回の公演はシェイクスピアの「夏の夜の夢」。妖精王夫婦と若き恋人たちの恋模様のハチャメチャな錯綜を描いた喜劇。シェイクスピアといえば昨年のスターライト主宰鵜飼氏の「マクベス」のような悲劇が有名だが喜劇も傑作が多い。しっかりと構築された人間関係の設定をベースにしたドタバタが実に面白い。今回もスターライトのシニア劇団員のほのぼのと温かい演技と相まって楽しい舞台となっていた。


月夜のアテネ郊外の森の中。二組の若い恋人たちが自分たちの恋の行方にやきもきしていた。一組は親に結婚を反対され駆け落ちを決意するハーミアとディミートリアス。もう一組はハーミアに横恋慕したライサンダーに恋するヘレナ。そこに浮気性で気の強い王妃タイテーニアと妖精王オーベロンの夫婦喧嘩が加わり。シェイクスピア定番の芝居要素であるところの劇の稽古にやってきたアテネの町の職人クインスとボトム。さらにいたずら者の妖精パックが絡んで右往左往の大騒動。


本来こっちが好きだったのに魔法であっちが好きになり2人から言い寄られて困惑したり、好きな人はあっちが好きになって好きでもない人に言い寄られたり、王妃様まで何故かロバ頭の男に惚れてしまう。この手の人間関係の錯綜は「間違いの喜劇」など結構シェイクスピアの喜劇に出てくる。設定がしっかりしているので決まると本当に面白い。


スターライトのメンバーのそれぞれの個性を活かした配役もよく楽しい芝居になっていた。悩めるハーミア、一途なヘレン。優しそうなライサンダーに宝塚の男役のような風情のディミトリーアス。気位の高そうな王妃がロバ男にデレる様のおかしさ。ロバ男のデレデレさ。黒一点のオーベロンの貫禄に劇団最年長で職人と妖精二役のお姉様の可愛さと早変わり。一番難しいパックのイタズラっぽさもきちんと表現され全員が生き生きと演じていた。


今回午前より午後のほうがエンジンがかかった感がありよりはっちゃけていた。(筆者裏方をやっており二公演とも鑑賞した)従って観ていて更に面白かった。特に妖精パック。動き表情ともメリハリがついてリズム感も良くなっていた。昨年の「天守物語」の富姫に続いての難役を魅力的に演じていた。ただ少々注文があるとすればやはり目線。もっと観客を見て語りかけてきてほしかった。そのほうがもっと客側も盛り上がれるような気がする。ロバ男のデレ度も午後のほうがどうしようもなくて(褒めている)面白かった。ロバ男との相乗効果か王妃様のデレも正気のときの気位の高さと差がついてより楽しい。客席の反応も実に良かった。


このシニア劇団スターライトだが劇団員の年輪からくる人脈の多さには毎回感心させられる。午前午後のニ公演とも席は予約でほぼ完売。故に毎回満席で本当に申し訳なかったが当日来られて入れなかった方もおられた。このことから主催者によると来年はひょっとしたら土日を使っての三公演になるかもしれないとのこと。


旗揚げ公演から清水邦夫作「楽屋」を持ってくるという本格的演劇に挑戦を続けるシニア劇団。これからも矍鑠として楽しみつつ上演を続けていって欲しいものである。また今後も裏方協力予定なのでよろしく付き合いのほどお願いいたします。さて、次は何に挑戦するのだろう。

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売り言葉

百景社 ツアー 2026 宇都宮公演

 作 野田秀樹

 潤色・演出 志賀亮史

 2026年4月19日(日) 14時

 於 アトリエほんまる

 

詩人というものは文学関係で一番身勝手な存在である。とは詩も小説も脚本も書く自分の認識だ。ある程度客を意識しなければならない小説や脚本と違い詩は自分の感性勝負の分野でありそうでなければいい詩は書けない。最も自らの感性に忠実な詩人とともに人生を送るのは人によっては至難の業となる。特に相手もまた感性に従う芸術家の場合思い切り分野が違ったりすればそこまでは行かないかもしれないが、諍いの芽となることは容易に想像できる。または諍いとまでは行かずとも互いの精神に負担をかけ心を病むこともあるだろう。

 

つまりは高村光太郎の妻智恵子に起きたことの要因の一部はそこにあったというのは周知、想像されることである。それ以外に生家の没落や生活苦など心労も重なり智恵子は心を病み、最後結核で命を散らした。智恵子の死後光太郎による詩という名のラブレターとも言える智恵子抄が発表された。そこに描かれたのは美しく無邪気な千恵子の姿。

 

ただし野田秀樹作の今回の芝居「売り言葉」は壊れゆく智恵子の内面から見た少々うがった光太郎像であり智恵子の芸術への欲求と認められぬ不安、追い詰められた日常生活への絶望でもある。

 

舞台中央大黒の前に縦長のスクリーン、その前に大少数枚の白いキャンバスが置かれている。合間にはデッサン用の人体模型の乗った台やいくつかの椅子。その前の中央に低い正方形の台に乗ったキャンバス。おそらくそれは智恵子の内面。心象風景。智恵子の心が壊れるとともにめちゃくちゃに破壊されていく。

 

役者は3人。初演は大竹しのぶによるひとり芝居だったようだが百景社の場合は3人の女優で演じられる。時折台本?の確認をはさみつつ狂乱に落ち込んでいくメイン智恵子を中心に客観的あるいは批評的な視点を加え上演されていたのが興味深い。これによって観客は智恵子の心理に同調するだけではなく状況を1歩離れた視点で見ることもできるようになる。社会情勢、光太郎との関係性、智恵子の懊悩など。

 

自転車が女性開放のシンボル的扱いだったのは二十四の瞳でも見られた状況。さらに智恵子の絵の才能。青鞜の表紙を描いたことでの新しい女という理想へのあこがれ。輝いていた時代は光太郎との結婚で次第に陰りを帯びていく。生活苦、夫の芸術活動への協力、今ひとつ花咲かない夫にも認められていないと感じる自分の才能。そこに実家の破産が重なり思うままに生きている(ように見える)光太郎への思いへの迷いと軋轢。追い詰められて智恵子はついに狂う。整えられていた内面が乱暴になぎ倒され破壊されていく。夫との家族との社会との関係性。それまでの「自分」を破壊し尽くした智恵子はそして叫ぶ

 

「ざまあみろ!」

 

狂乱の後智恵子は与えられた色紙を切り抜いて紙絵を作る静かな時期に入る。そして智恵子の亡くなった昭和13年、光太郎の身勝手な行動と激化する日中戦争に伴い発令された国家総動員法。二者は重なり合うように破滅へと突き進んでいく。

 

とにかくメイン智恵子の人の演技が圧巻だった。精神的物理的全方位から追い詰められた智恵子の狂乱がきちんと描けているから芝居の描くメッセージ性もしっかりと伝わってきたように思う。なんとなく観ながら大竹しのぶの芝居が浮かんでくる感じもあり動画など観て研究したのかとも思った。あとのお二人の存在は客観化とともに観客の理解を助け芝居に引き込む効果もあったのではないか。

 

とにかく本格的な芝居を観たなという満足感が観劇後残る芝居だった。

 

百景社は茨城県土浦市に本拠を置く劇団。サイトによれば「シェイクスピアなどの古典作品や文学作品を様々な角度から読み直し、現代にも通じる新たな景色を創造することを目指すという思いから劇団名を『百景社』と」したという。今回の三人芝居もその読み直しの一環なのだろう。このあともツアーがあるとのこと。個人的にはシェイクスピア作品も観てみたいと思った。

 

蛇足 今回の智恵子の解釈だがあくまでも野田秀樹による創作だということは理解しておくべきかと思う。光太郎や智恵子の行動や有り様から推し量ったと入はいってもあくまでも表に出た部分だけの類推でしかない。すでに亡くなった本人にインタビューできるわけもなし。ことに最後の戦争の絡みは智恵子との関係性の表現に必要だろうかとちょっと思ったりもした。この部分こそが野田秀樹らしいといえばいえるのだが。

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ドリームタイム

ユニット メロミス

作・演出・出演 田崎小春

2026年3月21日(土)17時

於 アトリエほんまる


生きている


怠惰な日常 の なかで

はっとする 覚醒


窓の外 の 小さな菜園

枯れ果てた菜園

一部屋 の アパート


満員電車 で もみくちゃ


玄関入って ここに あそこに

日常 の 詰まった 部屋


絵画 の モデル

その脇を 流れていく 講師の

具体的なような 具体的でないような

役に立つような 立たないような 

ざらついた 言葉


メロミス 絶滅した ネズミ

人類による 気候変動で


夢と 現実と 思考と

過去と 今と 見えない 明日


続くような 続かないような

物事 と 思いの

コラージュ


そして


私は 

旅をする


生きている

 

一見私小説のような作品。ただその中に哲学的といってもいいような1人の人間の内宇宙が広がっている。


舞台の作り方がユニーク。アトリエほんまるで通常客席と使われている場所を三段構成の舞台として鏡やテーブルなどの日常品が配置されている。客席は普通演劇が行われる舞台に配置されていた。


客席と同じ高さから田崎小春という“私“の旅は始まる。まずは自己紹介。どこで生まれ育ち。印象的なのは出産時へその緒が首に絡まって命が危うかったこと。外からくる理不尽な死のイメージは仕事で何日か外泊をせざるを得ず帰宅後発見した窓の外の枯れ果てたバジルや人間のせいで絶滅したメロミスというネズミとして何度も現れる。


客席と同じ目線で始まった自己紹介は一段一段と登っていくごとに観客側の日常を離れ“私“が旅をする内宇宙へと足を踏み入れていく。日常と思考と夢の入り混じった芝居空間に観客は引き込まれていく。


一間のアパート、満員電車、絵画モデルのアルバイト。とても具体的で雑多な日常と哲学的ともいえる考察と夢。相容れなさそうな要素が“私“という人間を形作っている。なにかものすごく驚くようなことも感動することもない。しかしそこで描かれる世界は深く広大だ。


一人芝居。最初から最後まで観客に“普通“に話しかける構成は非常に面白い。語りでもモノローグでもなく。それでも一つの芝居として完成している。


ドリームタイムは最初四人の役者で上演されたがその後作者である田崎小春の一人芝居として再構成され、都度書き換えられて継続しているという。つまり今公演は今現在の田崎小春の内宇宙ということらしい。ある意味一人芝居ならではの試みともいえよう。


またユニット名のメロミスはWikipediaによるとネズミの一種であり「オーストラリアグレート・バリア・リーフの哺乳類の内唯一の固有種で、人為的気候変動により絶滅した最初の哺乳類と言われている。」ということで田崎小春がこの事実に強い印象を受けて名付けたという。


ネズミも人も環境の変化によって左右される儚い生き物である。そして昨今の世界情勢のようにメロミスと同様外部からの暴力的行為の侵襲によって生きることを剥奪されるかもしれない。その他疫病、天変地異。そういう時代だからこそメロミスのひとりとして“私“は今現在の自分を記録し続ける。そういう芝居もあるのだと目を開かれたような思いのする作品だった。

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劇団むしょく~アスパラを添えて~ 初公演

2026年3月8日(日)16時30分

於 アトリエほんまる


新しい劇団の初公演。2作品のオムニバス。独特な世界観とストレートなテーマが印象的な舞台だった。

 

雨後星天

 作 琥珀糖


雨が降り続く世界。いつまでも見上げれば厚い雨雲しか見えない。でもその上には本当の空があるという。本当の空、宇宙、星を見たくて宇宙飛行士になることを夢見る少女。否定的なことをいう周囲の人間。ただ1人出会った年老いた男はかつて一時雨がやみ星空が見えたと語る。周囲の無理解と迷いそして決意。ふと気づくと雨がやみ星空が広がっていた。


少女の真っ直ぐな夢へ向かう意志が印象的な芝居だった。本来の少女役の方が体調不良ということで急遽決まった代役ということで朗読劇への変更となったとのこと。にも関わらず少女役の藍音さんはよく感情を表現していた。現実に立ち比較的批判的立場の紫桜さんのなった存在感もいい。ただ老人役の隼さん、多分演劇の経験がある方と思うが朗読劇であってももう少し役として立って欲しかった。老人の積み重ねてきた年月、たった一度見た夜空への思い。かなり厚みのある役と思う。そこが描かれれば少女の決意の説得力もさらに出たのではないか。

 

仮面は語らない。

 作 ふぐまっちゃ。


なんでも願いを叶えてくれるアイテム。ただしその見返りに何かの不幸が起きる。比較的見られるシチュエーションではある。だが、この間xでシチュエーション被りを気にしていたら作品など書けない。という確かプロの人のポストを見かけた。そしてそこからがクリエイターの腕の見せ所だという。そういう意味でこの芝居は掟破りを突っ込んできたところが面白い。


古道具屋に曰くありそうな仮面が飾られている。店主がいうには被ると何でも望みを叶えてくれるがその代償に何かを失うことになる仮面だと。青年がやってきて亡くなった親友ともう一度話したいという。心配する周囲結局青年は仮面をかぶり願いを叶える。しかし直後から様々な感覚や記憶が消えていく。親友の記憶さえ。ここで掟破りの再度の願い返し。青年は過去から明日へと歩み始める。


普通は願い事は1回限定でありそこに後悔や破滅のドラマチックなストーリーが展開されるわけだが。今回は願い返しのところにドラマを組み込んだ。一見安直ではあるが過去は過去として人は未来へ生きていくという決意と再生のテーマが自分たちのこれからを見据えた若者の紡ぐ物語としてふさわしいと思った。


それはある意味で旗揚げ公演までに様々なアクシデントに見舞われ、演目も変えざるを得ず。それでも頑張って公演を成し遂げたこの劇団にふさわしいといえる。


ただ2作品を見て少々気になったのがセリフに重心を置きすぎたように見える脚本だったところ。最後テーマをいう。言葉での説明は意外と訴える力が弱くなる。あくまでもドラマの中で描かれる人間の生き様としてみせるほうが印象が強い。今回急遽準備した作品ということで仕方のない部分もあると思うが、そのあたりを意識するともっと作品として生きてくると思う。

 

劇団は始めるよりも続けるほうが難しい。とはいえ、始める方も難しいのには変わらない。今回の劇団むしょくの場合まさにその状態だったようだ。


最初予定していた芝居をメンバーが足りず上演不可となり、急遽演目を変えて上演の目途はつけたものの上演直前にキャストの体調不良で役者および上演形式の変更ということになった。そういう困難を乗り越えての初公演だった。


とにもかくにも旗揚げ公演を予定された日に完遂できたこと。これは本当によく頑張ったといいたい。ただ希望としては次回ぜひとも万全の状態で今回予定していた作品を上演してほしい。公演できたという満足感も思い通りに行かなかった不完全燃焼もいろいろあると思う。それは観る方も同じでどのような作品だったか観たかったという思いが残る。だから


ぜひとも継続を。頑張れ!

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