劇団en;
2023年8月20日13時30分開演
アトリエほんまる
毒と狂気とバイオレンスに満ちたコーラスラインとでも言うべき作品。ゆえに語られるのは人の心の闇であり救いがたい愚かさでもある。
「イストリゲーム 〜狂騒曲〜」は’前回の公演の「惡伽橋」でも闇と狂気に彩られた独自の世界を魅せてくれた劇団en;さんによる架空未来の物語。第三次世界大戦後社会が崩壊凶悪な犯罪者だらけになった日本では新たな処刑方法が考案された。それは囚人同士によるイストリゲーム。多くの観覧者の見守る中で行われるそれは処刑される囚人ひとりひとりの罪を自ら懺悔させていくもの。座れなかったものから順に処刑されてゆき、最後に残ったものは無罪放免となる残酷なゲーム。一面では蠱毒になるような可能性もあり。
とにかく全員が普通ではない。どこかしか狂気に侵されている凶悪犯揃い。唯一まともと思えた人物さえあらぬ方向の狂気に蝕まれている。マクベス夫人ではないが(筆者以前ひとり芝居で演じて鬱になりかけた)よくあの役の持つ狂気に耐えて全力で演じられると感心した。発声も演技も良いただ小劇場のキャパを超えた見事すぎる発声は最初の設定を語るところでセリフを潰し合ってしまい何をいっているのかほとんど聞き取れなかったのがつらかった。
叫び荒れ狂い傷つけ合い。これは演者たちが若いからこそできる芝居である。前回メインだった海月氏が今回は本当にちょいしか出なかったのもそのあたりに理由があるのではないかと思った。
役者は皆いい。放火犯と言葉で人の命を奪った犯人のお二人は前作に続き安定の存在感。シスコンで狂う実は犯罪を実行していない姉役の人のしっかりとした存在感も良かった。そして客席後方中央に座する執行官とも言うべき唯一の男性。観客の殆どが気づいていなかったと思われるがずっと繊細な演技を続けていた。たまたま私の席がその横だったので気づいたが、これはとんでもなく贅沢すぎる且つもったいない演出だった。遺族に死刑の執行官をさせるというのもまた狂気のなせることと言える。この場合はそれを法律で定めた社会の持つ狂気となるのかも。
照明音響も非常に凝っている。使われている曲も実にロックで自分の好み。一切甘さに流れず猛スピードで突き抜けていく感じが良かった。
とにかくこれまで宇都宮ではあまり見なかったタイプのユニークな劇団だと思う。やや展開が予想できる部分や荒削りな部分もあるがそれも魅力と感じる。最後まで誰が残るかはらはらしつつ見守った。次回作ではどのような異世界を見せてくれるのか楽しみだ。